平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「サクラ。ぼんやりではなく、恐怖で身がすくんだのではないか?」

 ディオンの鋭い指摘に、桜子はコクッと頷き、うなだれる。

「怖かったんです……こんなこと、初めてで……。ディオンさま、どうすれば治りますか? いざというときに戦わなくてはならないのにっ!」

 恐怖心で足が動かなかったのが、桜子にはショックだった。これが本物の剣だったら死んでいた。そう考えると全身が震えてくる。

「サクラ……」

 ディオンは、両腕で自分の身体を囲うようにした桜子を抱きしめる。

「これは一度切られた経験のある男でも、あり得ることだ。精神的なものなので、なにをしたら治るとは、はっきり言えない」

 小刻みの震えが収まるように、ディオンは華奢な身体に回した腕に力を入れた。

「鍛錬は、サクラの気持ちが安定するまで中止にしよう」
「でも……」

 なにもやらなければ焦ってしまう。

「では、この肩の打撲の痛みがなくなったら、竹刀を振るのは? 慣れ親しんだものであれば、落ち着くのではないか?」

 ディオンの提案に、桜子は何度も頷く。

「そうですね。それがいいです」

 桜子は壁にかけられた竹刀へと視線をやった。

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