平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「ディオンさまっ!」

 桜子は身体を起こしてディオンに手を振った。しかし、気づく様子がない。

(ラウリとニコがいない……どうしたのかな……)

 考え込んでいるようなディオンに、首を傾げた。

(まさか私のことで悩んでいる……? わけないよね? 心の整理をしたいとは言ったけど……)

 そんなことで、あんなに物思いに耽るような顔にはならないだろうと考えた。

「ザイダ。ディオンさまのところへ行ってきます!」

 桜子は立ち上がり、ディオンがどこかへ行かないうちに捕まえようと駆けだした。

 
「ディオンさまっ!」

 桜子はにっこり笑いながら、ぴょんとディオンの前に立った。

「サクラ、驚いたぞ」

 そういう割には表情が変わっておらず、驚いていないのだろうと桜子は思う。

(やっぱり、なんか様子がおかしい……)

「ディオンさま、おひとりでどうしたんですか?」

 桜子が明るく聞いてみると、整い過ぎる美貌が破顔する。

「私を気にかけてくれるとは、うれしいな」
「そんなことないです! いつでも気にしていますからっ。ご一緒してもいいですか?」

 桜子はわざとらしい笑みで、やはりなにかあったのだと悟る。

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