平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 女官に支度を手伝ってもらった桜子は、ルキアノス皇帝の部屋で待つディオンの元へ案内された。着せてもらった衣装は、ディオンの瞳の色に近い薄紫色である。
 
 入室した桜子は、ルキアノス皇帝とディオンの表情が柔らかいのを見てホッと安堵し、嬉しくなった。

「そなたの妃はとても美しい。凛としたわが国の国花のようだ」

 国花がわからない桜子は、あとでディオンに聞いてみようと思った。

「サクラ。先にアシュアンへ戻って待っていてほしい。今日中に戻る」

 イヴァナ皇后のことや譲位の件など、これからのことで、ディオンのやることは山積みである。

「はい」

 桜子はディオンに返事をしてから、ルキアノス皇帝に向き直る。

「命を助けてくださり、ありがとうございました。お身体に気をつけてください」

 ルキアノス皇帝に、丁寧にお辞儀をした。
 

 桜子のアシュアンへの帰路は、ニコが一緒だった。行きのどん底だった気持ちに比べ、今は清々しい、晴れやかで澄みきった心だ。

「ニコ、急ぎましょう! カリスタとザイダに早く会いたいです」

 隣を走るニコに、桜子はにっこり微笑み、速度を上げた。

 
「ザイダ!」

 後宮の部屋で落ち着かずに待っていたザイダは、桜子の姿に駆け寄った。

「サクラさまっ! ああ……ご無事でよかった……」

 ザイダは涙を流して喜んでいる。


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