平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 歩いてくるディオンに、一同がお辞儀をしている。桜子はただ茫然として動けなかった。

「エルマ、医師から軟膏をもらってくるように」
「はい!」

 エルマがディオンの脇を通り、小走りで出ていく。

 ディオンはゆっくりした足取りで桜子に近づく。

「可哀想に……今にも倒れそうだ」

 実際のところ、桜子は竹刀を床について立っていた。

「カリスタ、この娘を頼む。あぁ……年寄りのお前を三階まで足を運ばせるのは大変だ。娘を主翼の奥の部屋へ」

 主翼の奥の部屋へと聞いて、周りの者は驚き、その中でもイアニスが真っ先に口を開く。

「ディオンさま、そこは後宮でございます」
「わかっている。そこしか空いていないだろう? それとも、年老いた祖母に階段を使わせるとでも?」

 後宮がなんなのか知らない桜子は、ふたりの会話をキョトンと聞いていた。

「しかし……まだ娘は、得体が知れません」
「カリスタの目は確かだ。カリスタ、連れていきなさい」

 老婆は胸の前で両手を交差させディオンに礼をしたのち、桜子の左腕を支える。

「行きましょう」
「は……い……」

 この成り行きはよくわからないが、この老婆と超絶美形に助けられたのだけは理解できた。敵意ばかり向けられていた桜子はホッとして歩きだした。

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