平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
 塗り薬は無臭だが、患部に塗られるとスーッとして気持ちがいい。

「疲れているだろう? 横になって少し休みなさい」

 カリスタは寝るように言った。

 桜子は優しいカリスタに自分の祖母を重ねてしまい、瞳が潤みそうになった。

「……はい。ありがとうございます」

 カラフルなクッションがたくさんある、まるでお姫さまのような寝台に、桜子は横になった。


 
 ディオンはイアニスを私室に呼んでいた。

「イアニス、怪我をしている者にあそこまでする必要はなかっただろう?」

 アメジスト色の瞳はいつになく不機嫌そうだ。

「申し訳ありません。ですが、宮殿に住まわすのですから、何者なのか知らなくてはなりません」
「あの者の瞳に邪気はない。着ていた服もまったく見たことがない。シナイという武器も」

 竹刀が入っている竹刀袋は今、ここにある。

「ですが、遠い国からの間者かもしれません」
「第三皇子の私を殺しに? 私を殺すより、皇帝や皇太子に近づいた方がいいだろうに」

 ディオンは一蹴した。

「カリスタの言葉を忘れたのか?」

 湯殿で目が見えないふりをしたカリスタに、桜子は優しかったと言っていた。

「ですが、祖母に面倒を見させなくとも……、後宮は大事な場所です。将来の妃が住まうところ。あの者は使用人部屋でいいのでは……?」

 イアニスはそれでも食い下がる。

「カリスタがひどく彼女を気に入っている。それは無理だな」

 ディオンは乳母であったカリスタの様子を思い出し、小さく微笑んだ。

「あの娘に手出しは無用だ」

 まだ桜子に不信感を持っているイアニスだが、仕方なく頷いた。




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