平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
「サクラ と呼んでください」
「サクラか。わかった。やはり近隣国でも聞いたことのない名前だ。遠くから来たんだな?」
 
 ディオンは初めて見る艶やかな黒髪を手に取ってみたくなった。大きな黒目が印象的で、唇は塗らなくても赤い実のような色。

 美形が多いベルタッジアだが、桜子には神秘的な美しさがあると、話をしながら思っていた。

「日本という国から来たんですが……この国の名前を習ったことがないし、異国へ来て言葉がわかるはずはないんです」
「……だが、サクラは私たちの言葉がわかる。そうだな?」

 ディオンの口から『サクラ』とすんなり出て、桜子の心臓がドクンと跳ねた。自分の名前が特別なものになったように聞こえる。

「私は自分の国の言葉で話しているんです」

 ディオンは少し考えたような顔つきになってから、エルマを呼ぶ。扉のところで控えていたエルマは、すぐにディオンの元へやってくる。

「何でもいい。本を持ってきてくれ」
「はい。殿下、すぐに」

 エルマは膝を折ってお辞儀をしてから、部屋を出ていく。

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