平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
第三章
翌日の午前中。湯殿から戻った桜子の耳に、美しい音色が聴こえてきた。
「ディオンさまが弾いているのね。悠長なことでっ!」
ザイダの処分が心配で、桜子はもう一度かけ合おうとひと晩中考えていた。しかし、この国の法に異世界から来た桜子が口を出してはいけないと、自分に言い聞かせて我慢していた。そこへディオンが奏でる麗しい曲だ。
「そもそも、イアニスさまが好きなのに、女官たちにもいい顔をしているからいけないのよ。だから女官たちは自分に気があると思って――」
込み上げてくる不満が思わず口から出る。
「誰が、イアニスを好きなんだ?」
窓の外からディオンが見ていた。
「きゃっ!」
突然のディオンの出現に、桜子は肩を跳ねさせて驚く。
「ディ、ディオンさまっ! そんなところから――ああっ」
ディオンはひらりと窓を乗り越えて、桜子の部屋に下り立つ。
呆気に取られる桜子に、ディオンは微笑みを浮かべて近づいてくる。
「湯浴みに行ったのか。綺麗な黒髪が濡れている」
布でざっと拭いただけの髪へ、ディオンの長い指が触れる。その瞬間、桜子は心臓を痛いくらいドクンと跳ねさせてしまう。
「ちゃんと拭かなければダメだ。熱がぶり返す」
「も、もう平気です」
髪に触れるディオンの指から離れようと、一歩下がる桜子だ。その動きに、ディオンの美しい顔が顰められる。
「ディオンさまが弾いているのね。悠長なことでっ!」
ザイダの処分が心配で、桜子はもう一度かけ合おうとひと晩中考えていた。しかし、この国の法に異世界から来た桜子が口を出してはいけないと、自分に言い聞かせて我慢していた。そこへディオンが奏でる麗しい曲だ。
「そもそも、イアニスさまが好きなのに、女官たちにもいい顔をしているからいけないのよ。だから女官たちは自分に気があると思って――」
込み上げてくる不満が思わず口から出る。
「誰が、イアニスを好きなんだ?」
窓の外からディオンが見ていた。
「きゃっ!」
突然のディオンの出現に、桜子は肩を跳ねさせて驚く。
「ディ、ディオンさまっ! そんなところから――ああっ」
ディオンはひらりと窓を乗り越えて、桜子の部屋に下り立つ。
呆気に取られる桜子に、ディオンは微笑みを浮かべて近づいてくる。
「湯浴みに行ったのか。綺麗な黒髪が濡れている」
布でざっと拭いただけの髪へ、ディオンの長い指が触れる。その瞬間、桜子は心臓を痛いくらいドクンと跳ねさせてしまう。
「ちゃんと拭かなければダメだ。熱がぶり返す」
「も、もう平気です」
髪に触れるディオンの指から離れようと、一歩下がる桜子だ。その動きに、ディオンの美しい顔が顰められる。