何かおさがしですか?
キャッシュカード、クレジットカード、美容院のスタンプカード、歯医者の診察券、電車の定期券にファッションデパートのショップの割引券は二千円もたまっていて早く使わないと期限が切れてしまいそうだ。
正直、主役のはずのお札や硬貨の現金より、この溢れんばかりのカード類で、私の財布は国技館の大関や横綱のように、丸々太って重量感満点だったが、カード類を抜き去った今は、具のない餃子の皮のように頼りなくしなびており、見方によってはペッタンコの黒い煎餅と化している。
「あるやんか」
私の肩口から覗き見ていた涼子の手がスッと伸びてきて、カニのハサミが餌を摘むかのように、左手に持った私のペッタンコの財布の口から一枚のカードを取り出した。
「あるやん免許証。よかったなあ」
なっ、何をするんだこの女は! この免許証は決して他人には見せてはいけない物として、わざと財布の中の端によけて残しておいたのに。
「あっ‥‥‥」
それは私の落胆の声であり、余韻は憤りに変わった。
私がもし戦国の世の武将であったなら、先刻誓った自らの切腹宣言を撤回し、今すぐこの狼藉者を迷わず斬って捨てるところだ。
そんな私の煮え立つ思いをよそに、涼子は天真爛漫に微笑んでいる。