何かおさがしですか?
 
 高校二年の夏休みに涼子と原宿に買い物に行ったとき、『イタリアン&フレンチ』なんて書いてあるチョピリ値段の高そうなレストランに入った。
 勿論、涼子に手を引っ張られてだ。
 私はそれまでファミリーレストランにしか入ったことが無かったし、イタリア料理!? なんて市販のスパゲティを茹でて、缶詰のミートソース温めもせずに掛けて食べるとか、スーパーで売っている三枚一袋の冷凍ピザが関の山で、宅配ピザのMサイズでさえ、物凄く贅沢品に思えていたぐらい知識が浅かったから、私はレストランに入ってからも緊張しっぱなしだった。
           
 涼子は慣れた様子でメニューを開いていたけど、私にはそこに何が書いてあるのか、チンプンカンプンだった。
 パスタの欄のカルボナーラやペペロンチーノなんかはどんなものか想像がついたけど、ボンゴレビアンコだのフィットチーネなんて聞いたこともなかったし、さっぱり意味が分からなかった。
 恥を忍んで一品ずつ涼子におおまかな内容を説明してもらい、私はボロネーゼを注文した。
 涼子はクリームフィットチーネを注文していた。
 それを見て、あんな、きしめんみたいな平べったくって太いパスタがあるなんて知らなかったし、「これが食べたかったんや」と美味しそうに頬張っている涼子を、思わず尊敬の眼差しで見つめてしまっていた。
           
 実に小さな他愛もない出来事だけど、彼女との会話や体験で得るものは多く、常に刺激と新鮮味を与えてくれる。
 彼女の雑学、博学に助けられたことはその他にも数多くあり、一緒にいて飽きないし、本当に楽しい。
 話題の尽きない金曜の夜は、そうして更けていった。
 
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