何かおさがしですか?
「ちょっと待って!」
はっちゃけた涼子は私の制止もお構い無しだった。
たった今この路線の終点駅で電車を降りたばかりだというのに、今度は自分が暴走列車のように高らかに汽笛をならして走って行った。
駅前と言っても、実際にはこのレンタルビデオ店まで駅から150mぐらいはあると思う。
私の家への帰り道の途中に位置する都合の良い場所ではある。
夏の終わりごろに涼子が失恋してから、傷心中の彼女を慰めようと、一緒にバラエティー番組なんかのビデオを観だしたのがきっかけになって、毎週金曜日の夜は私の部屋で彼女とビデオやDVDをレンタルして映画鑑賞するのが、ここ3ヵ月ほどの恒例行事となっていた。
ただし、いつもの行動パターンと違ったのは、このお店に関しては全くの未開拓地であることだった。
というのも家から近い場所とはいえ、いつお店の前を通っても店名の看板のネオンが一ヶ所必ず切れていたり、ちょっと店内も薄暗く古めかしい雰囲気が漂っているから、なんとなく入りずらくて、確か半年前に一度だけ観たかったビデオを探しに来たことがあるだけだった。