何かおさがしですか?
ビデオ店の前まで来ると、涼子が気を使って言ってくれた。
「先に返しに行こうや、ウチも付き合うよ」
そう言って私の腕に組んできて、グイグイと引っ張っていく。
駅から一人で突っ走って行った昨日と違い、今日は二人で一緒に自動ドアをくぐった。
店内のレジカウンターの中には、昨日と同じ店員さんの姿が見える。
「あっ、今日もおったよ」
いたずらっぽく笑って涼子が言ったので、私は涼子を抑止した。
「シィーッ‥‥‥。声が大きいよ」
こっちが意識していることを、わざわざ悟られたくはない。
涼子が言うように、本当に私のタイプの人だったかどうか、もう一度よく顔を見て確認したかっただけだから、向こうに意識させる必要はないのだ。
昨日の会員証の再発行の一度きりのやり取りと、毎日何十人、何百人のお客さんが出入りする中で、私たちの事など覚えていない可能性のほうが高いと思うし、忘れてくれているほうが幸いだ。
そうしてさっさと返却を済ませ、店員さんの顔だけ確認して、何事も無かったようにお店を出ることを予定していた。
しかし客観的に見ると、私たちは昨日と同じ二人組だし、ましてや涼子は私の家でお泊りしていたから、白いハーフジャケットに薄いピンクのスリムパンツという昨日と同じ服装だった。