何かおさがしですか?
お店を出て駅へ向かって歩きだすと、また涼子が腕を組んできて言った。
「やっぱりいい男やないの」
「‥‥そう?」
そう言われれば、そんな気がしないわけでもないが、昨日も今日もあのお店では恥ずかしい思いの連続で、店員さんの顔を興味深く観察する余裕など私には無かった。
「理英にその気が無いなら、ウチが告白して付き合っちゃおうかなぁ」
「‥‥どうぞ、どうぞ」
今の私にとっての優先順位は、そんな事より駅まで涼子を送った後に一旦帰宅し、返却し忘れたDVDを持って、再びあの忌まわしいビデオ店に行くことで頭がいっぱいだったし、それを考えると、とても憂欝だった。
私たちは、駅前のロータリーで旋回する私鉄路線バスの鈍重な車体の動きをかわすようにして道路を横切る。
灰色のコンクリートの階段を登って通路を進むと、改札口の手前に売店がある。
その売店で涼子はミントのキャンディを買った後、ふと思い出したように私に言った。
「ウチ来週からバイトしようと思ってるんだわ」
これはまた初耳な話だ。