何かおさがしですか?
「何のバイト?」
私が聞いた。
「キャ・バ・ク・ラ」
もったいぶるように一音ずつ切って涼子が言った。
「マジ?」
「マジ」
前から何かバイトがしたいとは聞いてはいたけど、まさかお水関係の仕事を選択するとは思わなかった。
決してそういう仕事に偏見を持っている訳ではないけど、彼女の家はわりと裕福だし、よほどの奢侈な生活を望まない限り、ちょっとしたお小遣いには困らないはずだ。
「何でまたお水の仕事にしたわけ? 時給いいから?」
「まさかぁ、お金目当てやないよ。男や、オ・ト・コ」
冗談ぽく言う涼子の口調はさほどいやらしくは聞こえない。
それに人見知りもせず、喋りが得意な彼女には確かに向いてそうなバイトかもしれない。
少し沈黙を挟んでから涼子は、やや神妙な表情に変わり、また話し出した。
「実はな、今日これから面接も兼ねて一日体験入店するんや」
「そうなんだ」
「実際にバイトするかしないかは、今日やってみて考えっけどな」
そうは言ってるけど、きっと涼子は、やる方向9割で気持ちを決めていると私は推測した。