何かおさがしですか?
突拍子もない話を振って来るから、ちょっとだけ戸惑ったけど、確かに私は映画とかが好きだから、そういうバイトをしてみたいと常々思ってはいた。
けれど、あの辱めを重ね重ね受けた(実際には自分で招いた)あの不吉で忌まわしいお店でバイトしている自分の姿は、ちょっと想像出来なかった。
「じゃあ電車来っからまた連絡するわ」
「わかった‥‥‥」
足早に改札口を通った涼子は振り向きもせず、大きなストライドで、この終点駅で折り返す各駅電車に乗り遅れないよう、ホームへの階段を駆け上がって行った。
私は、涼子を見送った後、しばらくその場に立ち尽くしていたが、ハッと我に返って家路を急いだ。
ビデオ店の前を通る時、あの店員さんがいるかなと、少し離れた反対車線の歩道から、自動ドアのガラス越しに店内を覗いてみたけど、視力が低いからこの距離ではよく見えなかった。
アルバイト募集しているって言っていた涼子の言葉を思い出したけど、そんな貼り紙か何かあっただろうか?
何だか今思うと、さっきの涼子はいつもの涼子弁ではなく、怪しい標準語で喋っていたような気がする。
秋の日は釣瓶落しと言うけど、今のような冬の始まりの時期のほうが、さらに陽が暮れるのが早く感じる。
たちまち訪れた逢魔が時に、緩やかな上り坂を小股で歩き、誰もいない我が家に辿り着いた頃には、辺りはすっかり夜の帳に包まれ、吐く息は白くなっていた。