何かおさがしですか?
それに結構品数が揃っていそうに見えるけれど、SFとか、ホラーとか、コメディーとか、コーナーのジャンル分けが少し中途半端に見受けられる。
素人の私が偉そうな事を言うのも何だけど、特に旧作コーナーは、お目当ての映画タイトルを探すお客さんにとって、難解なパズルを解くほどに困難な捜し物になると思う。
どんなに権威のある数学者でも、勇猛果敢な探検家でも、ことごとく苦戦を強いられるはずだ。
店内の右奥の方向へ視線を向けると、天井からぶら下がる照明にはピンク色のフィルムが貼られている。
コーナーの狭い入口には、大きなタペストリーを真ん中から縦に切り裂いて作った暖簾がひらひらとエアコンの風に揺れていて、何やらその奥の怪しげな空間を、易々と青少年たちに覗かれないように垂れ下がっていた。
しかし、その僅かな隙間から中の様子は充分伺い知れる。
あぁ、アダルトコーナーだ‥‥‥。
そっちは随分と品数が充実しているように見える。
多分‥‥‥。
「これ借りっぺ」
涼子が手に取って来たのは、2本の新作タイトルのDVDだった。
当初の目的の映画ではなかったけど、取り敢えず彼女はこれで妥協したみたいだ。
涼子はSFやホラーなんかの子供が観るような単純明解な映画ばかり観ている。
失恋してから恋愛ものや、感動して涙する映画は一切観たくないらしい。
いつも勝ち気でポジティブ思考の彼女にしては、実に消極的でネガティブな動機だと思う。
逆に多少映画に詳しい私としては、観る前からストーリーや要点などの予備知識を熟知してしまっているので、あまり興味がない。 よって正直私の気は進まなかった。
「本当にこれでいいの?」
念押しで私が聞いた。
すると涼子はこう答えた。
「ええよ、とりあえず無難な線で借りとけば外さへんやろ」