何かおさがしですか?
涼子はよく関西弁をベースに、東北弁なのか、九州弁なのかさっぱり分からないけど、様々な方言をごちゃ混ぜで喋る癖がある。
いわゆる【涼子弁】とでも称すべき新方言だろう。
彼女は中学校の卒業前まで父親の仕事の関係で2、3年おきに日本各地を転々と移り住んでいたらしく、その土地々での方言に影響されっぱなしで、結局一つのイントネーションに定まらないまま成長してしまったらしい。
ただし例外がある。
彼女は嘘をつく時だけ、棒読み台詞のような平淡過ぎる標準語を喋るのだ。
意外と微妙で分かりづらいけど、友達の中でそれに気付いているのは私だけかもしれない。
それも涼子の魅力というか、愛敬の一つだと私なりに解釈している。
「お客様、会員証をお忘れになりますとレンタル出来ませんが」
私が会員証を忘れて来てしまったことを告げると、仏頂面の店員さんが、さして丁寧とは思えない口調で言った。
このお店の社員さんなのか、一人だけYシャツにネクタイをしている。
見たところまだ20代前半ぐらいだろうか。
そのネクタイがお洒落で案外格好がいい。
それにどこかで見たことのあるような感じの顔に見えるのだが、よくある顔と言えばそうでもある。