何かおさがしですか?
「え?」
私が戸惑っていると店員さんが言った。
「本日何か身分を証明出来るものをお持ちですか?」
「身分証明ですか?」
「あれば会員証の再発行という形で本日レンタル出来ますが」
家の近所のお店とはいえ、ここに来たのは半年前の一度きりだ。
しかも 探していたビデオが見つからず、いずれは利用するこてもあるかもしれないと、入会だけして結局何もレンタルしたことはなかった。
でもまさか今日その時が訪れようとは夢にも思わなかったから、このお店の会員証は、いつの日か蘇り、復活することを願うファラオのミイラのように、部屋のタンスの抽出しに眠らせたままだった。
いや、実際のところ正確には何処にあるのか定かではない。
それこそ部屋中を掘り返すような大発掘作業が必要となるだろう。
「運転免許証でいいですか?」
私は咄嗟に聞いた。
身分証明と呼べるものなどこれぐらいしか持っていない。
「結構です」
また冷たい口調だ。
しまった!!
私はすぐに躊躇い、そしてとてつもなく後悔した。
確かに免許証は取得しているし、今この場所にも持って来ている。
左手に握り締めた財布の中だ。
これは涼子が私の誕生日プレゼントにと、パチスロの景品で取ってくれた某ブランド品の(本物か偽物か定かではない)黒い長財布なのだが、その中にしまっている免許証を取り出せば雑作も無く済むことだ。
けれども、今ここにすんなりと免許証を提示出来ない乙女の切実な事情があった。