何かおさがしですか?
今年の春から夏休みにかけて、わりと短期間ながらも大金を費やしてやっと取得出来た免許証の写真は、夏の台風直撃の最中、遅刻ギリギリで試験会場に駆け込んで、苦労して手に入れた思い出深い写真だった。
しかしその容色は悲惨極まりなく、髪はボサボサで顔は全くのノーメイクだし、おまけに視力が低いから眼鏡を掛けていて、自分でもこの世の者とは思えないほど恐ろしくブサイクに写っているからだ。
とても他人の面前に曝せる代物じゃない。
それこそ犯罪だ。
県の迷惑条令に触れるかもしれない。
虞犯少年より質が悪いはずだ。
確認の為にとか言われてコピーなんてとられた日には、私は間違いなくこの場で自決するだろう。
「お持ちでないんですか?」
しどろもどろしている私に、店員さんが痺れを切らしている。
「あの、免許証も忘れてきちゃったので今日は‥‥‥」
今日は諦めます。とりあえずこの場は諦めようよと、涼子に対しても同意を求める意味を込めて振り向き、小さく首を振ってサインを送った。
勿論、諦めようでは済むはずはない。
毎週欠かさず続けてきた涼子との映画鑑賞会が途絶えてしまうことになるからだ。
かといってまた電車で五つ先の駅まで引き返して、再びいつものビデオ店まで足を運ぶ気力は残っていない。(さっきの全力疾走で体力まで消耗してしまった)それに、私はこういった葛藤で瞬時に判断を要求されると、軽いパニック状態に陥ってしまうのだ。