青と雲
本を戻しに行く。
「ヨリはどうするの?」
「勉強しようかと思ったけど帰る」
「勉強なんてしないくせに」
「お前にだけは言われたくないわ」
「わたしこう見えても頭いいんだからね」
「帰るか」
自動ドアを抜けて路地に入る。
「部活は?」
「今日は休み」
「ふうん、大変だよね、水泳部」
「今は筋トレばっかりですぐ終わる」
「へえ」
それから黙った。
この緩やかな時間が続いてほしい。
「じゃあな」
「うん、またね」
それぞれの家に入る。
隣だからか、あまり別れるという感覚がない。
ヨリの家の方から温かないい匂いがする。
……いいなあ。
あんなふうに温かい普通の家庭に生まれたかった。
ヨリのお母さんはいつだって優しい。
わたしが急に遊びに行っても必ずお菓子やジュースを出して優しくもてなしてくれる。
そんなこと考えても仕方ないか。
冷たいドアノブに手をかける。