No border ~雨も月も…君との距離も~
そう……寂しいと思うのは、

掴めそうな夢に 少しだけ怖がっているだけ…。

どうしたら、離れなくて済むのか…なんて 答えなんかない。方法なんてない。

このままでは……前に 進めない。

どんなに離れても……シンのことを信じよう。

結局、そこに 答えは辿り着く。

私が……行為の後遺症から しゃんと背筋を正した時、玄関から シンの ただ事ではない声が響いた。

「 何しに来たんだよっ!!
俺の前に 二度と現れるなって、言ったはずだろっ!! 」

私は ビクッとして…玄関に視線を送ったまま、シンの後を追って ロフトを かけ降りた。

「 そう言うと思って……けれど、お前に こんな事しか してやれないから。」

「 うるっせぇんだよっ! 今さら……。
んなもん……いらねぇよっ!! 」

私は、恐る恐る……離れた所から 入口の先に目をやる。

「 とっとと、うせろやっ!! 」

どこかの会社のロゴが入った作業着姿の その男性は、白髪混じりではあるが 目鼻の整った 気のせいか……シンに似た人目につく 雰囲気を持って 佇んでいた。

50代…半ば くらいだろうか……。

年齢の割には 色気のある瞳は まさしくシンと同じ素材で できているように見えてくる。

「 これ、さっさと 持って帰れよっ。」

そう言って シンは、その男性が手渡した茶封筒を 彼の足下に 投げつけた。

その勢いで 中身の 一万円札が束の形で三分の一ほど 顔を覗かせる。

「 帰れよっ!!俺、まだ 引越し準備で 忙しいんだわっ!! 」

ガツン……バンっ!!

派手な音を立てて シンは男性の目の前で扉を激しく閉めると、バタバタと部屋の中へ戻ってくる。

すれ違い様に 私と一瞬……目が合うけれど シンは鋭い目を泳がせて、肩で息をしつつも 黙ってロフトに かけ上がった。

私は 扉の外で 男性が背中を向けて 去ろうとする気配にハッとして……シンが 気になりつつも、慌て
て扉を開けた。

なぜだろう……

身体が 勝手に動いていた。

シンと 同じ瞳。

ガサッ……っと サンダルの爪先に さっきの茶封筒が触れた。

思わず、厚みのある その封筒を拾うと 彼の背中を追った。

後ろ姿……肩幅も、シンと 同じ。

「 あのっ……!! 」

私の声に振り返った男性に、何を言っていいのか……分からない。

なのに……。

喉が 勝手に彼を 呼び止めていた。
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