No border ~雨も月も…君との距離も~
「 月が……空の向こうに消えたら、

“ どうせ、あいつの子なんだから……”って。

めちゃくちゃで。

紗奈と初めて出会ったのも、そんな頃で……

キャーキャー騒いでる 女の子達に 調子こいてた俺を……“ 吸殻…捨てるなっ!!“って、バッサリ切り捨てた 紗奈のことを……

本当は……

俺に 立てつく女なんて めちゃくちゃにしてやるって……そう思った。」

「 めちゃくちゃに……してるの?」

「 めちゃくちゃに……されてる……(笑) 」

私は、私の腕の中で 困った顔で笑う シンを…ぎゅっとする。

「 あいつ 見てると……死ぬほど嫌で、母さんの代わりに 俺が 殺してやるって 言いたくなる。

けどさ……俺も あいつと変わらないこと やってんのかなって 思うと……やっぱ 月が怖くて。

月が 怒ってる……月に 叱られる……

あいつと同じ、俺を……たぶんひどく 拒絶して、軽蔑している。

こんな 俺に 幻滅して 嘲笑うんだ。」

また シーツを頭から被る、シンの言葉に私は左右に首を振る。

「 シンは……悪くないよ。」

「翔平は あの頃の俺を、よく知ってるから……紗奈とのことを 怒ったんだと思う。

翔平…紗奈のことが 好きだから……

俺にだけは……触んなって 思ったと思う。」

シンは シーツ越しに 私に背中を向けて、身体を小さくして スネる。

「 夏香とのことも……付き合ってた時期もあった。」

胸の中で 炭酸水が弾けて、溢れだす。…私の入り込めない何かが……二人には ある。

感じていたし……知っていた。

「 今は、俺にとって…信頼できるマネージャーだけど、紗奈には 俺の口からちゃんと言っとかなきゃ……って、ずっと思ってた。」

やっぱり、複雑。

けれど……私の複雑なんかより……涙を堪えるシンの傷を 今すぐに塞いであげたいと思った。

私の複雑な気持ちなんかより…ずっとシンの傷は深くて、治りが悪い。

汚れた傷を 丸ごと受け入れたなら …少しは癒えるかな。

丸ごと愛したら…その傷は 完治するのかな。

それなら……迷わず

私は、その傷を舐めると思う。

それほど……泣いている彼が 愛しかった。

誰だって、秘めた傷を庇って生きてる。

痛みを 引きずって 生きてる。

「 シン……。私は、どんなシンも好きだよ。」

「 …………紗奈。」

「 どこに居ても、誰といても……どんなに離れても シンを信じてるよ。

純白のシンも、汚いシンも……全部、それがシンなら どれも大好きだよ。」

どれも……愛してるよ。

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