No border ~雨も月も…君との距離も~
シンは、私を見つめる。

お父さんと同じ瞳。

その数秒が ひどく長く感じる。

すでに夜風になった 通りすがりの空気の流れに…シンは、瞬きもせず……

「 ありがとう……。 俺も……そう思う。」

目から鱗のような 表情から一転……

目力が ふっと緩んで、シンの顔は優しく……そして少し はにかんだ。

「 愛することを……やめない。」

シンは、どこか遠くを見つめて 繰り返した。

私は シンの手を、封筒ごと彼の胸へと 持っていく。

「 シンのお母さんが 生前…シンのために掛けてくれてた保険 なんだって。

シンのためにしか 使い道が無いって……

お父さん、そう言ってた。

精一杯の愛情を 伝えるのが難しいのなら、こんな形でも いいんじゃないかな。」

「 ……母さんの墓参り、行っとくべきだったかな。」

「 そうだね。きっと 誰よりも シンを想ってる。」

「 歌がね…とても好きな人だったんだ。

ずーーっと 歌ってた。(笑)

俺に 普通に…話しかける時も オリジナルの歌でさっ!

オペラかっつーの……(笑)

たまに 変なラッパーみたいな時もあって……

おかしくて……可愛らしい……人だった。」

「 ……(笑) 歌は、お母さん譲りだったんだね。」

「 …紗奈。 絶対音感って知ってる?」

「 あーーっと。えっと…すごいんだよね。

音階を正確に聞きとれるっていう…。基本の音が無くても、音を聞くと 音名で答えることが出来るんでしょ。

あっ…ほら、有名な話で…モーツァルトが持ってたとか……。?」

「 (笑) 正解っ! 」

「 ……シン、持ってるの? 絶対音感…。」
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