No border ~雨も月も…君との距離も~
夏香は 電話を切ると……いつか、シンが 酔って冗談で言っていた パスコードを 恐る恐る押してみる。

うそっ……。 開いた。

さっきのライン電話の通話記録を 消去する。

すぐ上を スクロールすると 少しだけ……二人の会話が 目に入る。

迷って……親指を止める。

イラつく。

このまま 続けたら、

募りすぎた愛情が…何か別のものに変わってしまうのではないかと……自分自身が怖い。

シンへの想いが、募りすぎて……怖い。

パスコード。

本当に 開いてしまうなんて……

頭の奥の方で 何かが 崩壊するのが 分かる。

いつか……メンバー同士で ふざけて言ってた、彼女の名前のパスコード。

37……

浮かれてるよ。 有り得ない……シンらしくない。

らしく……ない。

私の知ってるシンは、いつだって心のどこかに冷えた感情と隣合わせで……

“ 彼女 ” って、言いながら……どこか冷めてて、どこか軽くて……。

だから……

私と一緒に、ashを築いてきた時の 喜びの顔や、感動した時の笑顔は ホントに本物で……

私だけに 見せてくれた シンの姿だった。

それが、シンだったはず。

浮かれてる顔 なんて…見たことなかった。

なのに、あの子といる時のシンは

らしくなく……浮かれてる。

熱っぽい視線の 彼を見ていると 嫉妬で私が崩壊する。

私を 抱いた手で……あの子に触れてるの……?

あれこれ駆け巡る想像に……

心の歪みが 大きくなる。

一層……コロシテ…しまおうか。

殺して いいかな?

あの子を?

シンを?

一層……めちゃくちゃに…

思わず、振り上げたシンのスマホを 慌ててテーブルに置く。

“ 好き ” が “ 憎しみ ” に近くなる 瞬間に震えて…ハッとする。

今、自分にゾッとした。


3年前…私と付き合ってた頃のシンは、私を1度も見ていなかった。

今も…同じ。 こんなに好きなのに、近くにいても…遠い。 あの頃と同じく、遠い。

だから…私から 別れた。

「 シン…私をちゃんと見てっ。
ちゃんと 見てくれないなら……別れよう。」

そう言った 私に……

「 夏香が、そう言うなら……わかったよ。」

彼は、優しい言葉で 最後まで 冷えた感情の隣で 、私を見てくれることは なかった。

あの頃、私の心は……ちゃんと見てっ!と叫んでいた。



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