No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ねぇ、紗奈。 不安なら 行こうか?」

「 ……えっ?! 」

「 うん! そうだっ。行こうっ!! 東京。」

「 ……マジで 言ってる? い…いつ? 」

「 今日に 決まってっんじゃん!! 今日だよぉ。」

「 ……今日?! 」

「 私、いつも本気だよ!」

「 でも……でも今日、ashは 新宿のライブハウスで ライブだよ……。」

「 だからっ!!
だからだよ…サプライズで 逢いに行けるじゃん!
チケット無いから、入れないかもしれないけど…そこへ行けば 必ず タクも シンも、いるよ。
着けば、何とかなるって。」

「 ……それは……。」

「 逢いたくないの?」

私は、全力で 首を左右に振る。


逢いたいよ。

今すぐ……逢いたい。


「 シンに 直接 聞けばいいよ!なんで 夏香さんがシンのスマホ、持ってるの……って。
そうすれば 不安なんてなくなるかもしれないじゃん。」

「 鈴…………ちゃん?」

力強い言葉とは反対に、鈴ちゃんの瞳が じわり…と 潤む。

「 ア……レ? 何やろ……。
(苦笑) 結婚式 なんて 見ちゃったからかな。
泣いてないよぉ~(苦笑)
ホント、泣いてないっ。」

鈴ちゃんが 愛しい。

「 私は、タクに 逢いたいよ……。」

少しの間を空けて ポツリ…呟く鈴ちゃんが 愛しい。

「 あっ……!」

その時、私はカフェの窓から差し込む 光の眩しさに、目を細めた。

スクランブル交差点の 向こう側。

点滅する青信号と 鳴り止む誘導音に 彼女は足を止めて、抱っこ紐の中で 眠る赤ちゃんに 笑いかけていた。

若くて 可愛いママ。
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