No border ~雨も月も…君との距離も~
シンは、夏香さんの身体を起こすと……手のひらで 口紅が付いた自分の唇を 拭うような仕草と同時に 私の方を見た。

シン……逢いたかった……

すごく…… 逢いたかった……

目が合ったような気がした瞬間に、私の身体は動き出していた。

今、来た 都会の夜へ。

「 ……シンっ!! 」

私より先に 鈴ちゃんが、何か言ったような気がした。

あんなに逢いたがっていた タクちゃんよりも 先に、シンに詰め寄ってくれる鈴ちゃんに…私は 一生頭が上がらない。

何やら ざわつく店内を置き去りにして 私は走り出していた。

ボタンを押しても すぐに 来ないであろうエレベーターを無視して、階段をかけ降りる。

紗奈っ!

紗奈ちゃんっ……!!

店の奥の方から男の人の声が、追いかけて来たような気がしたけれど それが誰の声かなんて、どうでもよくて……

もう……

どうにかなりそうで……

来なければ よかった。

夜の街へ。

駅 周辺は、まだ そこそこに人通りがあるけれど 意外にぶつからない。

とにかく ここから離れたいばかりに…上手く走れる。

一歩でも 遠くへ。

走って どうにかなるなんて…分からないけれど、辿り着く場所よりも 気持ちが正気に戻る所まで、走らなければ いられなかった。

けれど、

こんな都会の片隅に、私の行く宛てなんて無い。

ただ……

今、鈴ちゃんと来た道を戻るだけ……

情けない。

戻ることしか 出来ない、

都会を知らない 自分が……悔しい。
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