No border ~雨も月も…君との距離も~
夏の夜風が、街灯や街路樹の隙間を避けながら 通り過ぎる。

「 俺にしとけよっ。」

「 ……えっ…。」

熱いのか…涼しいのか? 曖昧な表情の夜の風。

「 本当は、そう思ってる。」

翔平君が、私を見つめる。

目を逸らす…タイミングが掴めない。


どうして…こんなに、

好きという気持ちは 行き違うんだろう。


「 ねぇ……翔平君。
この駅前の通り…春になったら川沿いに桜が咲くみたいだね。」

私は、ベンチから立ち上がって 彼にワザと背を向ける。

「 キレイだろうなぁ……。」

そう言ったら……急に胸が締め付けられた。

シンに振り回されている感情と、

翔平君の “ 大丈夫…?” なんていう…思わず寄り掛かりたくなる言葉に……

私の動悸は、めちゃくちゃだった。

「 話、逸らすなよ。」

「 ……ごめ…ん。」

でも さっき、川沿いの道を走り抜けながら 来年咲くであろう…この桜の木々を シンと見ることができるのだろうか…と、フッと頭をよぎったのは事実で……。

私は、シンを好きになりすぎてる。

こんな行き場の無い不安を 翔平君に見られたくなかった。

シンと夏香さん……さっきの光景を思い出すと 足元が、ふらつく。

翔平君は そんな私を支えるように、咄嗟に立ち上がると……

背中を向けたままの私を、背後から抱き締めた。

シンの 少し強引で…求めるがままの腕とは違う、翔平君の優しさの塊のような腕は やっぱり寄り掛かりたくなる。

ほんの少し、助けられたくなる。

やっぱり 感情が めちゃくちゃ……

「 俺にしとけよっ……。」

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