No border ~雨も月も…君との距離も~
「 翔平君……。」

「 俺に……しとけよって。
俺は、絶対に紗奈ちゃんのことを 悲しませたりしない。 不安になんか させないよ。」

翔平君の声が、私のTシャツの右肩に溶ける。

私は 目の前の景色に瞼を閉じる。

昼間、カフェなのか? それとも イタリアンのお店だろうか?…テラスの麻色のパラソルを瞼で蓋をすると、街路樹の緑のざわつきに気づく。

若草色の葉は、枝を隠してしまうほど…濃く、密に葉をつけて 青い匂いが、鼻につく。

都会の一角……緑の匂い。

サワッと葉と葉の擦れる音に混じって……

“ ashを、壊さないでっ! ”

夏香さんの いつしかの声が 木霊する。

シンを 見つめる グレーの瞳。

誘う……深紅の唇。

「 私……何、焦ってんだろ。

焦ってばっかで…

自分の想いばっかで…

人に気配りなんて、ひとつも出来ない。

そして……

今、すごく嫉妬してる。」

「 紗奈ちゃん……。」

翔平君の腕に ぎゅっと力が入る。

「 翔平君。私……翔平君が思ってるほど 可愛くないよ。

たぶん……今、シンに会ったら ひどい事を言ってしまいそう。

すごく……可愛くないよ。」

翔平君の、私の肩に触れる髪が左右に揺れる。

「 夏香さんみたいに……

上手にシンに甘えられない。

素直に……甘えられないよ……。」

目頭が 熱くなる。

「 それなら……俺に甘えろよ。

今日は、シンに逢うな。

ひどい事を言ってしまうなら、逢わずに……

俺に甘えてろっ!」

言葉が 出て来ない。

今にも、涙になりそうな雫を 溢れないように堪える。

「 シンには 逢うな。」

俺に 甘えてろよっ……。
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