No border ~雨も月も…君との距離も~
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「 まだ、引っ越したばっかだし…何もない部屋だから、紗奈ちゃん 一人ぐらい 眠れるはずだよ。」

下着のぶら下がった物干しを、カーテンレールから外して クローゼットにぶちこみながら翔平君が少し照れながら笑う。

「 布団も、ホラ。こっちに来てから買ったしさ。
…まだ 新しい。(笑) 」

うん、大丈夫。

なんて言いながら 薄手の掛け布団の匂いを嗅いだりする翔平君が 可愛くて、つい笑ってしまう。

「 ありがとう。……翔平君。」

「 いいえっ(笑)
明日の朝……ホントに始発で帰るんなら、鍵…下のポストに入れといて。」

「 あっ、うん。 ごめんね…翔平君は?」

「 俺なら、セカンドハウス いっぱい持ってるし。
(笑)
大丈夫。
今日は……タクはダメだし。
タケルん家か……スタッフの子の家もあるっ!
どこでも、転がり込めるから、気にしないで。」

「 本当に ありがとう。」

「とりあえず、レディー.マッシュに戻って…ここに居ること、シンに伝えとくから…
ゆっくり、休んで。」

「翔平君。
翔平君が 居なかったら私……。ありがとう。」

「 だろっ! シン、辞めて 俺にしとけよっ(笑) 」

「 …………。(笑) 」

「 冗談だと思ってるでしょ。」

「 翔平……君。」

「 おやすみっ!」

翔平は、ふっと笑って 右手を挙げて 私に背を向ける。

「 おやすみ……。」

私は 翔平君の階段を駆け下りる足音を見送って 鍵をかけると、全身の空気が抜けるかのように 6畳間の入口に 座り込んだ。

ここは 東京。

そして、彼氏ではない 男の子の部屋。

まだ、段ボールが積まれたままの シンプルな翔平君の部屋を見渡す。

ベッドとTVの他には ギターと小さめのアンプ、キーボードとPC。

機材が 黒い塊になって 部屋の大半を占拠している。

閉めきってあったせいか 湿気でむっとする部屋の窓を開けると、夜風が そっと私の喉元を撫でる。

航空障害灯?らしき 光る赤いランプ……雲がじわじわと散らばって 月の姿がぼんやりと現れては、 また隠れる。

黒い雲が……ぱらつく雨を 誘ったようだ。

電源を切ったままのスマホをアンプの上に置いて、すぐ横のベッドに腰かける。

そして……そのままズルズルと身体を倒した。

かなり 遠慮がちに、ベッドのはじっこで 私は目を閉じた。


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