No border ~雨も月も…君との距離も~
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あの日…。

もし、

あの通り雨が、通り雨ではなくて…朝から続く激しい雨だったとしたら……

“ もしも ” なんて無いと知っていても、

やっぱり…思う。

傘を差すか差さないか悩む…優柔不断な雨が空から落ちるのを見つめて、シンは助手席に乗り込む。

夕方の深い深い…青。

風の早い流れに 雨雲が少しずつ 両手を広げて近づいてくる。

うつむき加減な空色とは うらはらに…

こうして二人で居られる日は、嬉しい。

メジャーデビューを数ヵ月後に ひかえた今の現状を忘れて、明日になればまた東京へ戻ってしまうシンを…

私だけの彼氏にする。

シンを、私だけのものにする。

けれど、やっぱりBIG4の前の入口にはどこから情報が流れてしまうのか、女の子たちがashの出入りを 待ち構えていた。

インスタの炎上が脳裏をよぎる。

私は駐車場から一人、車を降りて…正面入口から中に入って 2階の非常口の鍵を開ける。

非常階段を かけ上がって、髪にのった霧状の雨の水滴を シンは くしゃくしゃと祓う。

私と目が合うと、ニッと笑うその笑顔に…ふっと寂しくなる。

とても好きな笑顔だから、寂しくなる。

ashのボーカルに切り替わった目をしている…シンに寂しくなる。

あの日…

もう少し激しい雨が降っていれば…

少女たちはBIG4の前に座って居られなかった。

そうすれば…

やっぱり、もしもなんて無い。

けれど…

そうすれば、ashが小さな事で 言い合う事もなかった。

いつものAスタでの練習風景があっただけだ。


BIG4 Aスタジオ

「 シーーーン。 遅刻やぁっ! 」

タケルがシンバルの奥から 目を細めて突っ込む。

「 悪りぃーー。」

シンは急いでマイクのセッティングをする。

「 シン。表…見ただろ! 女とここへ来るのやめとけよっ。」

翔平がシレッと呟く。

「 …ん。 ああ。 悪い。」
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