No border ~雨も月も…君との距離も~
ていうか……今、すごーく あからさまに 釘を打たれた感じ。

夏香さんは 自分で制作したであろう……ashのロゴの入った名刺を1枚 差し出しながらニコッと微笑んだ。

シンの 周りにいる 女の人はどうしてこんなに 綺麗な人ばかりなんだろう。

「 あっ……初めまして。私……。」

「 知ってる!紗奈ちゃんでしょ。東野さん(鈴ちゃん)から……聞いたの。
バイトの子 もう一人いるって。」

「 あ……(笑) そうです。
山城 紗奈です……。よろしくお願いします。」

「 よろしくぅ~! 東野さんって、あの子さぁ……タクの彼女なんだよね……。
タクは、ashの結成当時から……2代目のベーシストだから 彼女の話は聞いていたけど、会うのは この前初めてだったの。」

近くで見ると、益々……綺麗な人。
ぷっくりした唇は、厚みはあるけど小さめで 少し
アヒル口。

ハキハキとした口調は 気が強そうに見える美人。

シンのイメージからいうと 元カノと言われたら、かおりちゃんよりしっくりくる……かも。

ヤバい……よけいな妄想は 止めよう。
また、無駄に悩む……(涙)

「 で。…私 もしかして、嫌われてる?
東野さん……何となく態度が冷たいのよね~。」

(苦笑) 鈴ちゃん……顔に出ちゃうからなぁ。

「 (笑) そんな事ないと思います…ケド。」

「……そう? まっ。いいか。
友達になれそうな 紗奈ちゃんが いてくれて!
久しぶりの金沢、不安だったんだぁ。
私が ashと一緒に出入りしてた頃の、スタッフさん、皆 いなくなっちゃってたからね。」

「 (笑) よろしくお願いします。」

この調子だと……鈴ちゃんは 私とシンの微妙な関係?を 彼女に言ってはいないみたい……。

助かった……。

でも、ちょっと 複雑。

まぁ……言いようがないよね

シンのアッシー、三代目です!……っていう以外
事実は無いんだから……。

「 ash……私が作ったの。」

夏香さんは、グレーのカラコンの奥の眼に 力を込めて 私を見る。

「 えっ……!」

また、釘を打ち込まれた気がする。

「 (笑)……言いすぎたかな。シンと翔平を会わせたのは、私なんだぁ~。
学園祭で シンの歌う声を聞いて……
ヤバいって 思った。
まるで 本物の洋楽を聞いているかのような 滑らかで透明な ミディアムロックに、気がついたら……
泣いてて……。」

私は、仕事の手を止めて 夏香さんを 見つめる。

完全に…釘…打たれてる。しかも…ど真ん中に。



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