No border ~雨も月も…君との距離も~
誰か……

誰か……

お願いっ……助けて。

タクちゃんを…助けて。

助けてくださいっ……

赤色灯が 遠くで雨に滲んでいく。

違う。

涙に 滲んでいく。

これは…… 夢。 怖い夢。

モノクロの 黒い夢。

「 逝くなっ。 タク! 許さねぇ…タク、頼む…起きろっ!! 」

シンと翔平君は 何かに逆らうように…がむしゃらに 心臓マッサージを続けた。

これは…… 夢。 悪い夢。

二人のタクちゃんを 呼ぶ声が 雨音に混じる。

立ち込める煙……

ゴムの摩擦する匂い……

回り続ける エンジン音……

私は 横たわるタクちゃんの 手を握って、メット越しの 彼に声を掛ける。

こんなに大きな声が 聞こえないのかと……反応の無い タクちゃんの目元に、焦りが涙に変わる。

濡れてはいるけれど…温かい手のひら。

温かい…胸元。

タクちゃんの香水の香り。

なのに…なのに…

すぅーと…何かが引いていくような…

一気に何かが…冷えていくような…

そんな感覚に

無力さと…恐怖を感じた。

「 タクちゃん…。イヤだ…。目を開けてっ!
鈴ちゃんのために、目を…
開けて…。」

タケル君が 救急隊の腕を引っ張って、野次馬に割り込んでくる。

「 タク、救急車っ来たで!助かるでっ……。助かるでっ……大丈夫やっ!
タク……
タクっ!! 頼むで……起きてくれっ。」

慌ただしく 動き回る 救急隊員を 茫然と見守る私たちに 雨は降りやむこともなく……

「 頼む……冗談や 言うて…くれ。」

冷たいのか、温かいのか……

それすら 分からなくなった雨に、

私たちは だだ……立ち尽くした。

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