No border ~雨も月も…君との距離も~
*・゚゚・*:.。..。.・゚・*:.。. .。.・゚゚・*

その雨が 通り雨だったと気づいたのは…走って病院にたどり着いた 鈴ちゃんが濡れてなかったから…。

モノクロの世界は、私から言葉さえも奪っていく。

気の利いた言葉なんて…一つも無い。



神様。

こんな時、あなたは…

助けてくれないの…?

鈴ちゃんが、こんなに…叫んでも、叫んでも

こんなに……泣いても、泣いても。

ただ どこかで見ているだけなの…?



神様って…

いるの?

本当に いるのなら……どうか……どうか……

その息を止めないで。

あの時……

私たちは、命の前で…とても無力で、

命の境目で……私たちは、まるで置き去りで。

あの日、

あの時……

あの瞬間。

1、2秒の事で…

一つの命と 私たちの道、

掴みかけた 大きな夢は…

指の隙間から、無情にもこぼれ落ちた。



神様。

何でも する。

私の出来ること、何でもするから…

だから…タクちゃんを連れて行かないで。


タクちゃんの動かない身体に 泣き崩れる鈴ちゃんに…掛ける言葉なんて 無くて、瞬きも忘れて…
私は この現実に必死で立っていた。

神様に、八つ当たりしながら…この現実を受け入れる事なんて 出来なかった。

タクちゃんが 亡くなったことを 告げた医師は、全身を強く打ったことによる 即死だったと……私たちに静かに言った。

きっと、ひどく痛みを感じる前に……逝ったと。

「 拓也。………痛くなくて よかった。
小さい頃 、転ぶとすぐに泣いて……。ママっ、ママって……“ 痛いの、飛んでけしてっ ” って。
いつの間に、こんなに大きくなっていたのでしょうね……。」

そう言って タクちゃんの頬を撫でる お母さんを 見ていられなくて……私はヘナヘナとその部屋を後にした。

冷たくて白い……壁に手をかけて やっとの想いで歩くけれど、廊下の長椅子に 辿り着けなくて その場で 床にへたり込んで……泣いた。

私を追って部屋を出てきたシンは 私の側に腰を下ろすと……拳を床に打ちつけた。

黙って……何度も拳を打ち付けるシンの手を……

私は、黙って 泣きながら 握りしめた。

「 ………………。」

「 タク……なんで……なんでだよ。」

どんな言葉も……思いつかないし、無意味。

私の気持ちも、シンを慰める言葉も……どこを探しても無い。

「 目の前じゃん……。俺らの夢……目の前にあったじゃん。
タク……タクが居なくちゃ…… 」

「 ……シン。」

「 俺、嫌だよ。こんなん……嫌だよ。」










< 172 / 278 >

この作品をシェア

pagetop