No border ~雨も月も…君との距離も~
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まだ 夏を忘れられない 生温い風が、ビルとビルの間をすり抜ける。

そのたびに 窓拭きの清掃用のゴンドラが、ユラ…っと 音も無く 揺れる。

やべぇ~。 堕ちる。

なんて…思いつつも声にならない。

高層ビルの 23階。

陽の光が いくつもの窓に反射して、たまにキラッと眩しく 輝く。

初めは 足がすくんだ この高さも 最近は慣れた。

ツーンとする 塩素系洗剤の臭い。

たまに よぎる虚しさは……同じことの繰り返しで……

“ 俺。 何 やってんだろ……。” から始まる。

ふと、窓に 飛行機の機体が写り込んで、清掃されたばかりのガラスに キラッと反射する。


タクの……ベースのボディーみたい。

あいつ、よく磨いてた……。


シンは 思わず手を止めて、飛行機の行き先に目を細めた。



昼すぎ。

休憩をとるために 命綱を外して、つなぎのファスナーを 胸まで下ろす。

作業用のミニバンに相方と乗り込む。

残暑の厳しいこの頃の 車内は、たぶん30度を越える。

「 お前、しゃべれねぇ~の。“ お疲れ様 ”の一言くらい 言えよっ。」

「 ぁ……。 すいま……せん。」

シンに 差し入れの缶コーヒーを 軽く投げて 突っかかってくるのは、同僚の 俳優志望の 長瀬だった。

この仕事では、 3ヶ月ほど 先輩になる。


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