No border ~雨も月も…君との距離も~
シンの熱くなる唇と腕に 身を任せながらも、夏香は彼の肩から…シャツを剥ぎ取って行く。

Tシャツの上から…なぞる 彼の胸板。

指に触れるチョーカーに嫉妬しながらも…

この唇を離したくない。

二人で 狭い部屋の ベッドに倒れ込む。

シンの体重が 下半身にのし掛かるのが 愛しくて、夏香は 身体を委ねたまま…瞳を閉じた。

シンは 夢中で夏香の上着を脱がせると 首筋に唇を這わせる。

「 ………あ…ぁん…シン… 」

重ね合う…手のひら。

ぎゅっと握る…汗ばむその手に、彼の懇願するほどの…求める態度に 何もかも捨てて…

女…という肩書きだけになりたいと思った。


この唇だけで…

マネージャーであることや、

彼女の存在や、ファンや…

目の前の常識とか…

目の前の未来とか…

どうなっても いいから、女でいたい。


夏香が…そうやって、シンの背中に手を回した時……。

その一言で、

吐息と一緒のその一言で……

女の炎が 燃え広がる。

「 ………ぁあ……紗…奈 」

女が牙に なる。

夏香は、はっとして その手が一瞬にして かじかむのが わかった。

今、一番聞きたくない………

嫌。

心が牙をむく………

嫌。

なんで……あの子が この世にいるの?

この唇を 離したくない。

「 ………紗奈……」

けれど、この唇を 離したくない。

シンの腕に 力が籠れば、籠るほど……

悔しくて、悔しくて 焼きつくされそうになる。

嫌……すぎる。

そんな風に、そんな声で あの子にせがむ彼を 憎いとさえ思う。

こんなに 近くにいて……

こんなに傍にいて……触れあっても……

こんなに 私を一人きりにする シンなんか……

この牙で引きちぎりたくなる。

なんで あの子なの……?

なんで 私じゃないの……?

こうやって 私を抱き締めながら あの子を思うあなたは…

ひどすぎるよ。


どうして……?

どうして。

どうして、

どうして………………

“ 私を愛してくれない あなたなら 一層のこと。”

夏香の愛情不足分が…イラ立ちになる。

けれど、本物でないとわかってもこの唇を…やっぱり 離したくない。

好きだから…ただ それだけ。

どんなに歪んだ感情が 襲ってきても…結局、

好きだから…

私が正気でいられる 理由は、たったそれだけ。






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