No border ~雨も月も…君との距離も~
「 はぁ………… ねぇ。 シン…… 」

夏香は シンの胸から 少し身体を起こすと じっとその瞳を見つめた。

ほんの 少しの期待。

もしかしたら…男だったら この腕を止めないかもしれない。

シンじゃなくて、男でいい。


「 シン………好きだよ。」

男と女で…いい。

「 私………。 シンのことが 好きだよ。」

シンは こめかみを押さえて、ゆっくり身体を起こす。

まだ おぼろ気な 表情を残して 首をかしげる。

「 ………………ん…ぁ。はぁ… 」

「 …シン。 抱いて…。」

男で いいから…

「 ………………夏…香? 」

私を…見なくていいから。本能でいい。


「 ……ご…めん。 夏香…」

「 ………いいよ。 いいんだよ…。」

夏香は そう言って 自分の下着の肩を落とす。

「 ごめん。俺………………どうか してる。」

シンは、こめかみをもう一度押さえて 首を振る。

「 ごめんじゃないっ。ごめんじゃ…ないよ。」

「 ………………。」

言葉がうまく 声にならない。

夏香の目に涙が溢れる。

激しい感情が涙に変わる。

「 ごめんで……おさまらないよ。
どうして、どうして私じゃダメなの…?」

「 ………水。 水は………?」

ベッドから、 少しふらつきながら立ち上がろうとするシンの手首を夏香は 両手で捕まえる。

「 抱いてよ。 シン………。」

そのまま 勢いよく下着を外す 夏香にシンは静かに身体の向きを戻す。

「 …夏香、待てよ。」

シンは 掠れる喉に力を込めて 夏香の手を止める。

「 落ち着けって…やめろって。」

「 やめない……。」

「 ………夏香。」

シンは 上半身を露にした夏香から そっと目を伏せながら 彼女を抱き寄せると 上着を肩にかける。

「 どうして……紗奈ちゃんなの?
私は こんなにシンを 好きなのに………。」

玄関のダウンライトのみの 薄暗い部屋で、夏香が
泣きじゃくる。

「 どうして、私じゃダメなの………?」

「 夏香、 服…着て。」

「 そうやって、理由を言わない所も ズルい。
私は代わりになれないの?」

「 ………………。」

黙るシンの 前髪を夏香はそっと かきあげて…爪先をあげる。

涙の味がする 唇。

純愛…なんてなくていい…男の本能で抱いてくれれば それでいいのに…。

「 夏香は、夏香だろ。
誰かの代わりになんかなる必要がないよ…。」

シンは そう言って 唇を離すと、フラフラとシャツに腕を通した。


< 186 / 278 >

この作品をシェア

pagetop