No border ~雨も月も…君との距離も~
夏香さん……は、私よりもずっとシンの事を知っていて シンと同じ夢を追っている。

チクン……の理由。

バチンバチンっと、ホールの客電のレバーを一気に上げると 漆黒の暗闇が壊されて、ホコリ達が 驚いたかのように舞い上がる。

機材やアンプ、ドラムセットが 浮かび上がり、中央のマイクスタンドが客電に反射して 一本の銀色の光の筋に見える。

思わず ステージに上がって、マイクスタンドに触れてみる。

私の唇より 10cm以上 高い位置にセットされているマイク。

足元の古く毛羽立った黒い絨毯が、ボーカルの立ち位置、ギター、ベース……とそれぞれ立っている場所が色落ちして、薄くなっている。

シンの……位置。

ここから見る……景色。

夏香さん。……私もシンの事が、好き。

まさか、言えない。

だって……彼氏であるはずのシンに、私はまだ…

片想いしている。

そんな気持ちでいた。

あと、10日もすれば クリスマス。

BIG4のイベントの中でも10組ほどのバンドが出演する大きなフェスが、イブに予定されていた。

ashは、もちろん トリを務める。

シンへの クリスマスプレゼント……全く思い浮かばない。

シンが今、何を欲しいのか 想像もつかない。

ありきたりに……差し入れ?

ケーキ?(苦笑)

冬だから……手袋(…する?しないなっ!)

服? Gパン? アクセ?(わからなすぎ……困)

時計?(高っ!無理)

香水……?( いつもの…あるし。)

なんか……混線……(涙)

どれも、ピンとこない。

夏香さんなら……さらっと、シンの好みの物を言い当てたりするのだろうか。

ここから……見る景色。

ただ感じるのは、シンはこの景色に満足してはいないだろうということ。

最大動員数200人の、この小さなホールの 先の先を見つめながら……彼は歌っている。

それだけは、わかってあげられるような気がしている。
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