No border ~雨も月も…君との距離も~
同じく酔っている人か、眠っている人か…車内はいつもより やたらと静かに感じて 電車の走行音の繰り返しと車内アナウンスに シンは 少し平常心を取り戻した。

流れていく夜の明かりの点を 追うことに疲れて…目を閉じる。

「 ……ミナトさん。 すみません。」

「 あぁ。 ったく…息あがるし、サツに睨まれるし…。俺、朝から仕事だっつーの!
レディマッシュでお前に会ってしまったのが…運のつきだよ(苦笑) 」

「 明日…イベントでしたもんね。
すみません。」

「 ……ええよっ(笑) 」

「 ミナト……さん。

ミナトさんは……どうしてPAしようと思ったんですか? 」

「 俺、? 俺は お前みたいに表に立つ人間じゃないんだ。

音楽、オタク。(笑)

音の分析とか……基本、製作してる方が好きなんだよね。

……てか、聞けよっ!(笑) 人の話っ!!

寝るかよっ!!(笑) 」

「 ねぇ……ミナ……トさん。」

「 起きてんのかよっ!(笑) 」

「 ……表にしか立てないって…怖いですよね。」

「 ………………。」

「 俺……。 金沢、帰りたいっス。」

シンは座席に沈み込むように座って…目を閉じる。

「 …………。めちゃくちゃ情けねぇ~なぁ。

挫折のつもりか?

挫折ってのはな、もっとあんだよ…。

もっと怖いこと、ムカつくこと…いっぱい あんだよ。

……てか、寝るなっ!!(苦笑)

いい話、してやろうとしてんのに……(笑)

なぁ。 シン……。

いきなり 死なれるのも たまんねぇけど、生きてる人間は もっとたまったもんじゃねぇ。

裏切ったり…騙したり…差別したり、孤独だったり。

挫折なんて もっとある。」

シンは、目を閉じたまま 頷く。

「 ここ(芸能界)で生きていきたいなら…もっと強くなれっ。」

強くなれっ。

ここで……生きる。

タクの迷いが 今更ながら、よくわかる。

けれど、ここで生きるしか…俺の求めるものは どこにもない。

ここにしか、ない。

俺という人間は 歌を失くしたら…音を失くしたら…。

それが…一番 怖い。

< 194 / 278 >

この作品をシェア

pagetop