No border ~雨も月も…君との距離も~
「 紗奈ちゃんは、しっかり前を見てんだなぁ。

あいつら…皆、ashの亡霊に取り憑かれてる。

どれだけ 想っても 元に戻らねぇものに…

取り憑かれてる……。」

「 ミナトさん……。」

「 その試験、終わって 落ち着いたら、あいつの所
に 連絡してやってよ。

俺、伝説の続きが見てみたいんだよね…。

あいつの歌、もう一度 聞いてみたいんだよね。」

「 私も……聞きたいよ。

けど、私に…壁は壊せないよ……。」

夏香さんの声が……離れない。

夏香さんの言う通り、ashを壊したのは…私?

……かもしれない。

あの日、シンと一緒に BIG4へ行かなければ。

あの日、タクちゃんと最後に話したのは …私。

彼を、引き止めなければ…あるいは 彼をもう少し…引き止めていたら。

あの1秒は なかったのかもしれない。

目頭が熱くなる。

「 ミナトさん……私、どうしたら いいんでしょうか……? 」

朝焼けの 直線に バスが近づいて来るのが見える。

バスを待つ人々が やんわりと乗車口へと列を作る。

ここで……乗らなきゃ。

ここで。

「 今、シンを助けられるのは…紗奈ちゃんしかいないって気がしたんだよね。」

逢いたい数を…数えないようにしていた。

「 ア…レ? もしかして 俺もなのかな…?

ashの亡霊に取り憑かれてる……(苦笑) 」

夢の亡霊と闘うシンに 掛ける言葉も思いつかなかったし、鈴ちゃんを想うと…好きな人の側にいることすら 罪悪感を感じてしまう。

けれど……

母親

仲間

大切な人の最後を 二度も目の当たりにしたシンを……

抱きしめなくちゃ……。

どうしていいか 分からないから、

抱きしめたい。

今、すぐに。

「 分かりました。 今からそっちへ向かいます。」

答えなんて、分からない。

正解も…きっと 分からない。

ただ……今すぐに シンに 逢いたい。

今すぐに……彼を 抱きしめたい。
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