No border ~雨も月も…君との距離も~
「 冷蔵庫に……荷物、片付けなきゃ… 。」

私は、荷物を思い出したフリをして、わざとこの怖いくらいに 薄いクリスタルから 離れようとする。

私に……シンの 壁は 繊細すぎて、

怖い。

とても……薄くて繊細。

それなのに、深くて果てしなくて…血が出そうなほど……痛い。

壊れやすくて、壊せないほど 聳え立つ…そんな壁。


私が立ち上がると、シンは私の手首を 異常に力を込めて 引き寄せた。

この 透明な存在は、鋭く尖っているからこそ、美しさと荒々しさに……ドキッとする。

乱暴なまでに

美しい。


「 やらせろよっ……。」

「 ………………。」

「 その為に、来たんだろっ!! 」

「 なに……言ってん… 」

返事を返す前に ベッドに 押さえ込まれる。

押さえつけられる。

シンの吸い込まれるような 瞳の奥は、どこか やけっぱちの様な気がして 私は抵抗する。

「 嫌。 イヤだよっ……! 」

「 うるっせっ!!」

シンは 私の上着を無視して、その下のTシャツを むしり上げる。

「 イ…………ヤダッ。」

私の力が、シンの腕に通じないことぐらい分かっていたけど…バタバタする。

力の限り…バタバタする。

「 黙れってっ!!」

「 黙ら……ないっ!!」

「 なんで………。」

シンの力がフッ……と緩んで、私の下着から手を離す。

まるで……不安定な 子供。

「 優しくないと………イヤだよ。」

正気に戻ったシンは “ あっ…そうか…。” という表情で、もどかしそうな態度をみせる。

その 一瞬の表情が 可愛くて…


愛しさが もどかしい。


「 ごめん……。 紗奈。」

「 ………………平気…… 」

シンは 気まずそうに 私から目を逸らすと、自分で、自分の襟元の 匂いを嗅ぎながら…

「 俺……酒臭っ。 ……シャワーしてくる。」

そう言って ユニットバスへ フラフラと向かった。

私は 乱れた Tシャツの裾を直しながら 天上を見上げて息をついた。


シャワーの音を聞きながら……

今一つ 生活感の無い部屋に、差し込む西日が 消えそうになっているのを見て 思い立ったように立ち上がる。

ユニットバスの扉に映る シンの身体の影に…勝手に 手が動く。

細く開けた 戸の隙間から 声をかける。

「 シン……。 一緒に 入っていい?」

うつむいて 髪を濡らしたシンは、フッと笑って…シャワーを止める。

髪をかきあげて……右手を差し出す。

「 おいで……」

やっとの思いで声を 絞り出す シンの耳のピアスが揺れて……

くらっと…する。
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