No border ~雨も月も…君との距離も~
「 翔平君……やめ…て。」

翔平君は、床に倒れ込んだ私の胸元に頭を沈めると 太股までめくれ上がった ワイドパンツごと下着に手をかける。

自分の手足が…他人の物のように、感覚が薄くて力が入らない…。

揉み合ううちに、腕に力が入らなくなった私はそれでも 必死に翔平君の肩に拳をあてる。

叩き続けているはずなのに…触れているほどの力にしかならない。

感情を置き去りにした翔平君の表情は…もう翔平君じゃなくて…彼の視点はどこか狂ったままで、私のシャツや下着を押し退ける。

馬乗りになったまま 自分のTシャツを脱ぎ捨てる 彼の表情があまりにも 冷たくて…

私の首筋に 涙か?汗か? 伝って 髪が湿っていくのがわかった。

何度もやめてと叫ぶけれど…声にならない叫びが届かない。

脱力する私の身体に、翔平君は 乱暴に触れて…首筋、胸…そのまま……

下半身に手を伸ばそうとした時、

彼は、不意に手を止めて、私の身体から上半身を起こした。

私は、慌てて床を這いずって 身を縮める。

「 何だよ……。 ソレ……。」

「 ………………。」

私の身体に 鳥肌が立つ。

私よりも脱力した表情で……もっと絶望した表情で……彼は私に背中を向けた。

「 胸のキスの痕……シンが 付けたの…?」

「 ………………。」

やっぱり……声がでない。

「 肩の後ろ。 内腿も……?」

「 …………………帰る。」

「 何だよ……ソレっ!手も足も…出ねぇじゃんっ!!なんなんだよぉぉーー! 」

翔平君が 力一杯…投げつけたシャツが壁にあたって落ちる。

「 …………シンのことが、好きだよ…。
翔平…君。
大切に…してくれてる。シンは…私を…大切にしてくれてるよ…。」

「 ……敵わねぇ…って。
ごめん、紗奈ちゃん。 ……帰って。」

「 ……翔平君。」

「 早くっ!!あいつん所、帰れよっ!!
そうじゃないと……俺、また変な気になるから…。

帰れっ!! 」

外れたボタンを掛けることも出来ないほど 震える手で私は 慌てて胸元を押さえるとバッグを小脇に抱えて玄関へでた。

スニーカーも うまく履けないほど、足元がおぼつかない。

この……感じ。

久しぶりに、空気が足りない。

なんでだろう……早く この場を逃げなくちゃ…と思うのに、私は恐る恐る…振り返る。



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