No border ~雨も月も…君との距離も~
「 ……翔平君。 私……

やっぱり、ashを壊したのは 私……なのかな? 」

「 …………。」

怖い……今、いる現実が 足元から崩れる……。

「 答えてよ。答えて……翔平君。」

シンが付けた 胸元の唇の痕が ヒリヒリする…ような気がする。

その時、

玄関の扉が開いて…一気に部屋に陽が差し込んで ベッドに 上裸のまま座り込む 翔平君が 眩しそうに顔を上げた。

「 何っ!……っ! なにやってんの。 二人で? 」

夏香さんは 目の前の私と翔平君の姿に、目を見開いて 声のトーンを下げた。

「 違う……違うの 夏香さんっ! 」

動揺のあまり 持っていたバッグを その場に落としてしまう、私の胸元がはだける。

「 答えて……あげようか……。」

「 夏香さん……本当に、違うの。」

「 答えてあげるっ!! あんただよっ。

あんたのせいだからっ!

ashを壊したのは、全部…あんただからっ!」

夏香さんは 私の肩を押しやると、右手を振り上げた。

叩かれる……と思った。

叩かれても…いいと、一瞬 思った。

私の肩から ズリ落ちるシャツを、ねじ上げるようにして 掴む夏香さんの指先から 憎しみに近い 怒りが伝わってくる。

全身に……伝わる怒り。

“ 違う……っ! ”

こんなに誤解だと叫びたいのに、言ってしまうと軽い気がして……言葉を飲み込んでしまう。

「 夏香さん、誤解だよ。 本当に、違う。」

翔平君の腕が、夏香さんの右手を止めたのか……?

それとも、

シンの唇の痕が……彼女を止めたのか……?

たぶん、見えた。

死ぬほど 情けない私がいて…一層、殴られれば良かったとさえ思う。

女同士 言い合えた方が 楽になれた気がした。

男、二人に守られた私は……本当の私じゃない。

「 ……最っ低っ……。」

夏香さんの瞳から 怒りに濁った 涙が溢れた。

「 …………違う。」

私の顔と 部屋の奥の乱れたベッドを、交互に睨む。

「 最低の女だね……。」



どうやって 部屋を出て、

どうやって 階段を下りて、

どうやって この角を曲がったか…

覚えていない。

髪は乱れて シャツの胸元を握ったまま……スニーカーを引きずる私に……小雨が降りだした。

通り雨だと思う。

傘を忘れてきたことに気づいた。

最低の女……

最低……だよね。
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