No border ~雨も月も…君との距離も~
*・゚゚・*:.。..。.・゚・*:.。. .。.・゚゚・*

私は 深呼吸を ひとつ。

シンの部屋の扉を開ける前に もう一度、髪を結び直した。

「 ただ…いま。」

「おかえりっ。…どこ行ってたの? 」

シンは調度、ユニットバスから出て髪をワシャワシャさせながら…奥の部屋へと向かう。

「 あっ……うん。 買い物。

ほら。 私、東京……知らないから……。」

嫌だ……私の顔色に気付かないで。

「 ふ~ん。」と言って、こっちに戻ってくるシンにドキッとする。

「 何? ……なんか…買ったの?」

「 …ううん。 …欲しい物なんて…無かった。」

「 ずいぶん濡れたな。(笑) 」

シンが、何を想っているのか 分からない時がある。

それは、今も…以前も同じで。

彼はそっと私の髪に触れて…優しいキスをする。

「 濡れちゃったから……シャワーさせて。」

シンは、私の胸の鼓動に気付いているのだろうか…?


行かなければ…良かった。

軽率だったのは…私。

ashを…壊したのは、私。


まだ 湿っぽいシンの背中に手を回すと 安心した。

「 ねぇ…シン。」

ボディーソープの香りが残るシンの肩に額を委ねる。

「 何…?」

「 シンの他に……何も欲しい物なんて、無い。」

「 そう…?(笑) だろっ!(笑) 」

シンは、ケラッと笑うと 0・5秒ほど遅れて口角を上げる。

照れた瞳を 一度私から逸らして…

もう一度、真っ直ぐに私を見つめて…

「 俺、紗奈だけを幸せにできれば…それでいい。」

ashを……壊したのは、私。

「 …………シン。」

胸が 潰れそうなほどの罪悪感を誤魔化すかのように…この幸せだけに寄り添えるなら……

他に、何もいらない。

シンが傍に いてくれるなら、初めから何もいらない。

「 どっか、行こうか。

紗奈に まだ、東京…ひとつも見せてなかったね。」

「 ………うん。」

「 どこへ行きたい? 何を見たい?…何 食べたい?」

「 ……うん。(笑) 」


ねぇ…そんなに…優しくされると

泣けてくる。

やっぱり、シンは…何を考えているのか 分からないよ。

そんなに…優しく 抱きしめられると

苦しくなるよ…。


私は、まだ少し震える手を隠して…鼻をかむフリをして涙を拭った。



< 207 / 278 >

この作品をシェア

pagetop