No border ~雨も月も…君との距離も~
18章 カクテル
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「 お疲れ様で……す。」

「 あ。 お前さぁ…あ~やっぱ、何でもねぇわっ。」

「 何っスか? 」

シンは 長瀬の方を振り向きもせず 、しれっとバケツとデッキブラシを床に置いた。


……ったく。

人のこと、お前呼ばわりしといて…何でもねぇって。


シンは 少しイラッとしながら ゴム手袋を脱いで、バケツの中に放り込んだ。

「 声……少し出るようになったんじゃねぇのっ。」

「 あ……。はい…少し。」

「 バラード……。裏声、出せないと厳しいな。
結構、高い音域まで出さないと 歌えない曲 多いんじゃね。」

シンは ダボつく作業着を 軽く整えて、頭のタオルを巻き直す。

「 ……はぁ…。 まぁ…。」

長瀬の 意外な言葉に かなりボンヤリした返事をする。

「 いや……ashのバラード、彼女が知ってて。

結婚式場のCMの曲って 言ってたかな。

気に入ってた。

俺は、全く興味ねぇけど。」

「 デビューしてないんですけど。曲はSNSで何となく聴けるんで……

て、いうか……有り難い…です。」

興味ねぇけど……なんて言っている長瀬に、シンは少し向き直る。

「 今年、ゴリ推しバンド…から 一転。

幻の伝説バンド……かぁ~。(苦笑) 」

長瀬は、マンションの植え込みにツバを吐く。

「 ………………。」

「 ベースは事故死。

奇跡のハイトーンが売りのボーカルは声が出ない。

歌えないって……絶望的だな。」

「 興味……無いんじゃないっスかっ?! 」

シンは ため息混じりに、水切りワイパーを車のトランクへ投げ入れた。

こんなに バカにされてても 喉が言い返せない。

想いだけが…喉の奥で 渦を巻く。

「 あのさっ……諦めるなよっ。」

イラ立ちの中で、シンは耳を疑う。

「 …………あ“ ん?」

「 諦めるなっつってんの。

本当は こんな仕事……望んでないんだろ。」

「 …………。い…や。

この…仕事だって…誰かがしなくちゃ。

こんな仕事……なんて 思ってない…です。」

「 ……俺に好感度あげても しゃーねぇーよっ(笑) 」

「 …………×××。」

やっぱ、めんどくせぇ……コイツ。

長く伸びた長瀬の影に、シンは思わず片付けの手を止める。

秋空の夕陽が 溶けるように広がってくる。

そんな光景に 少し目を細める……。

本当は……

止まってなんか……いたくない。

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