No border ~雨も月も…君との距離も~
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ー 11月 東京 某サウンドスタジオ ー

キーボードで音を取りながら、シンは発声を繰り返す。

絶対音感に頼りきるほど…自惚れたくない。

必ず、正確な音を確認する。

「 はっはっはっ。アーーーアーーー↑↑ 」

思うように 高音が 上がりきらないことにイラッとして ニット帽の上から 頭を掻く仕草をすると、その場にしゃがみ込む。

「 はぁーーー。くっそ。」

と、ため息はつくものの……視線はスタジオの天井の角を見つめて、もう一度 立ち上がる。

スタンドからマイクを外して、首を上に向けて声の通り道を造る。

「 はっはっはっ。アーーー↑↑アーーー↑↑ 」

自然とマイクを持たない 左手が上へと上がる。

その時、スタジオの重い扉が ゆっくり開いて……遠慮がちに止まる。

シンは……“ ? ” の表情のまま…こちらも遠慮がちに扉の先を覗く。

「 ミナト……さん? 」

恐る恐る、確認する。

「 おう……。よっ!! 」

「 ど……どうしたんスか? 」

キョトンとするシンをとりあえず置いておいて、ミナトは 許可もなく Sスタに侵入した。

「 うん……まぁ。よく分かってるつもりだよ。」

「 ミナトさん……? 」

「 タクの代わりに俺は なれない。」

ミナトはベースをアンプの前に置くとシンの方を振り返った。

「 もし……タクの代わりじゃなくて、新しいバンドのベーシストなら、どんな奴でもいいんじゃないかって……。

未来なんて どうせ誰も分からないし……正しい地図なんて どこにもなくて……

前に進むしかないんなら、ベース…見つかるまで俺がサポートするよ。 」

「 ……マジっすか……。ホントに……ミナトさん。」

まだ 信じられない顔のシンの背後で、バタバタともう一人、新しい侵入者が声を掛けてきた。

「 ねぇ。シン君…私、翔平君のサポートなんて できるわけないんだけど……。

クレームなら ミナトちゃんに言ってよっ!」

ギターケースを抱えて 扉からひょっこりこっちを見るジェイに、シンは思わず吹き出した。

「 マジっすか……(笑) ホントに、ホント。?! 」

「 こっちのセリフよ。ホントにーーーーって!!

まぁ…伝説の指先を持つおネエ♡……って数年前は言われてたんだけどねぇ。(どやっ) 」

「 伝説の……指先?テク?(笑)
アレ……伝説の舌?…下?どーでもエエわぁ~下ネタかよぉーーーー!! (爆笑) 」

「 (笑) ……なんなんすかっ、二人とも……。」

シンは 突然のキャラの濃い訪問者に 笑いが込み上げる。

「 めっちゃ、嬉しいです。本当……。」


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