No border ~雨も月も…君との距離も~
しばらくして、速足でスタスタと 戻ってきたシンは、茶色の前髪も ミリタリーのジャケットも……雪だらけにして、私の前に立ち止まった。

私の曖昧な顔も ぶち壊す勢いで、カウンターに ひじを着くと まだ白い息のまま、耳打ちした。

「 俺の出番になったら、あいつ 上から見せてやってくんない。」

ポタっ……と、シンの前髪から 雪が水滴に変わる。

「 上から……って、照明室のこと? 」

「 うん。 頼んだ……!」

私の返事を聞く前に、もうスタスタと楽屋代わりのAスタに向かいながら、途中……ヒラッと振り返り……

「 カオリ、座ってろよっ!」

と、入口の前に 立ち尽くしたまんまの彼女に 声を掛けた。

カオリちゃんの、ニットのコートがあまり濡れていないのは、たぶん シンが傘を差してあげていたのだろう……。

彼女は、シンに言われた通り 長イスに腰かけて…少しうつむいた。

「…………。何なのよぉ~(怒)
まさかのっ!特別扱いっ?!
ここのホールは、オールスタンディングなんですけどぉ~!!」

鈴ちゃんが 小声で、イラ立ちの空気に 斬り込みを入れた。

「 どこまで、お姫さまのつもりっ!!(イラッ) 」

吠える鈴ちゃんの隣で、私はただカオリちゃんの何か 曖昧な背中をみつめた。

私も、彼女も……

同じ 曖昧さを抱えているような気がして……

もどかしい気がした。


クリスマスライブのトリ。

ashが サンタの衣装に着替える頃には、雪はやんで流れの早い、夜の雲の隙間に 形の欠けた月が見え隠れしていた。

私は シンの元カノ、カオリちゃんと並んで……ホールの上、3階部分にあたる照明室でashを見下ろすことになった。

六畳半ほどの 狭い部屋に、2人きりは近すぎる。

ありえない……。(泣)

ホントにーーーー。あいつぅーーーー(涙)

無神経なんやからっ!(金沢弁)

私は、いつもの照明の機械の前に立ってスポットライトを サンタ姿のシンに合わせた。

翔平君のシュールなサンタ髭がおかしくて、つい吹き出しそうになりながら……ハッとして 笑いを飲み込む。

隣のカオリちゃんが、うつむき加減に ガラスに両手をつけている姿に 何となく重苦しい空気を感じて……気を使う、私。

「 よかったら……どうぞ。 座って。」

私は、けして 座り心地のいいとは言えないパイプイスを カオリちゃんに 勧めた。

それしか無いので 仕方がない。

“ 座ってろよっ ”

なんて シンが カオリちゃんに優しくするから……

何となく……訳も分からず、私も いい人になってみた。

てか、お姫さまに 気を使う……私って……。

間違いなく、この子より格下。(沈)

「 ありがとうございます……。」

ボソッと目を合わせず 呟くカオリちゃんに……

遠慮は…無いかぁーーーー!っと心で苦笑しつつ、自分は中腰で(痛)照明の機械を操作した。






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