No border ~雨も月も…君との距離も~
平日の 静まり返った ホールに ブレーカーから客電をつける。

暗闇が、3段階で明るくなる。

「 なんだか……全部、嘘みたいだよ。」

鈴ちゃんが苦笑する。

「 ここに居た…ashもタクも、幻だったのかなぁ……って。

夢を……見てたのカナって……。」

鈴ちゃんは 静かに ステージに上がって…ベースアンプの前に立つ。

「 …………うっ…うっ、え…ぇ …… 」

その場に しゃがみ込む鈴ちゃんは アンプを抱きかかえるようにして、泣き出した。

「 幻……なんかじゃない……。幻 なんかじゃないよっ…… 」

「 いつか……シンと翔平君とタケル君は やってくれるよね。

タクの夢を、叶えてくれるよね……。」

「 ……うん、必ず。」

そう答えた私は、鈴ちゃんの嗚咽とホールの埃っぽい籠ったままの空気に 酔ったかのように……

足元が ふらつく。

身体が フワリと持って行かれる 感じ。

壁に肩がぶつかった気がする。

気がついた時には……

一瞬、記憶が 途切れていたことに 驚いて 倒れ込む自分にハッとした。

「 ……紗奈っ!!」

鈴ちゃんが 慌てて ステージから駆け降りてきて、私の体を 支えた。

自分の手首で涙を拭いて、しっかりした目で 私の顔を覗き込んだ 鈴ちゃんは そっと私を床に座らせた。

「 ……大丈夫?! 紗奈っ?」

「 ……あ…ぁ。ごめん…大丈夫。
ちょっと、めまいがして……。 平気…… 」

「 水、買ってくる。 待ってて……!」

「 ここ 数日、お店の引っ越しで 仕事が立て込んでたから…… あんまり 食事もしたくなくて…。」

「 そっか……忙しいのに、今日は付き合ってくれてありがとう。 嬉しかった。 待ってて…… 」

「 鈴ちゃん……っ!」

「 ……ん? 」

振り返った鈴ちゃんは、また 私に駆け寄る。

「 ……何でも…ない。」

「 どうした? 」

「 ……何でもない。」

「 ……何? 」

鈴ちゃんは 私の側で、膝をついて聞き直す。


私は 壁に身体を委ねるとステージの方を見つめた。

まだ 少し……マイクスタンドが揺れて見える。


「 生理…こない。」

「 ……えっ……?」

「 2ヶ月……近く こない。」


ー どう、生きる……? ー

胸が ムカムカする……

吐きそうで、吐けなくて……

気持ち……悪い。




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