No border ~雨も月も…君との距離も~
銀色の目潰しの中、ashのライブが始まった。

たぶん、今日のライブのチケットを持った お客さんは、お目当てのバンドを見て……一旦 外に出るものの、ashの出番になると、もう一度 戻って来ているようだ。

上から見ていると、ホールの中は 既に……鮨詰め状態になっていた。

動員数を越えているであろう オールスタンディングのホールは、シンと翔平君が 跳び跳ねる度に 同じタイミングで 人影が飛び上がり……絶妙な一体感を作り上げる。

タクちゃんが キラースマイルを振り撒く度に……
“ キャーーーーーーーーー!!”
の声で、建物が震動するような 気がした。

シンが マイクスタンドを 荒っぽく振り回し、
翔平君のギターのボディーが ビカビカと反射する。

タクちゃんとタケル君の リズム隊のコンビネーションが、音の波となって 全身を 拐っていく。

クリスマス用の ashは、彼ら自身がプレゼントでもあるかのように、存在が、キラキラした光の塊のようだった。

ワクワクした。

人を虜にする、ワクワクの方法をashは、よく知っている。

シンは、いつものライブよりも はしゃいでいるのか…?MCも長め…。

彼の無邪気な顔に、私も同じく 子供のように笑ってしまう。

MCの合間や、曲の途切れに……「シンっ!!」と呼ぶ声は この部屋の分厚いガラスを通しても 届いてくる。

音 。

声 。

汗 。

熱 。

鳴り止まない メンバーを呼ぶ声を 聞きながら、ふと隣のカオリちゃんに 目をやると……

彼女は、肩を震わせて ポロポロと涙を 溢していた。

眼はクシャっと閉じて……ギュッと力を込めている。

口元に両手をあてて カオリちゃんは、泣いている声を 押し殺していた。

私は、ステージ上の シンの笑顔にスポットを合わせる。

やっぱり……この部屋はマイクの声が すぐそこに聞こえて、シンの吐く息や 服や アクセの擦れる音をクリアに 拾う。

片手を延ばして、テッシュを1枚 引き抜くと
カオリちゃんの肩を叩いた。

「 涙。拭いて……。今日は、ライブだよ!
楽しまなきゃ!!」

…と カオリちゃんに言いながら……自分にも言い聞かせる。

「 私……何で、シンと 別れちゃったんだろう。」

「 …………………………。」

言葉を……

返せない。




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