No border ~雨も月も…君との距離も~
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「 あなたも……大丈夫ですか?顔色が 悪いように見えます。」

「 平気です。少し車酔いかな。大丈夫ですので。」

私は 女性救命士の言葉を遮って…痛みに堪える夏香さんに 視線を戻した。

「 ……痛っ……くぅ…。」

「 夏香さん、病院 着いたよ。動かないで…… 」

「 私は……大丈夫。

シンに伝えて……必ず、次のステージも成功させてって。

痛っ…たた……はぁ……。お願い……。」

私は ストレッチャーに 横たわる夏香さんに寄り添う。

夏香さんの首筋に 苦痛の汗が 光る。

「 シンが言ってた。夏香さんが かばってくれたって…… 」

「 ……紗奈ちゃん。

私、シンの為だったら 何だってする……。」

「 ……夏香さん。」

「 何だってするよ……。シンの為だったら 私の命なんて…… 」

夏香さんは 顔を歪める。

「 話さないでっ!!」

女性救命士が 言葉を止める。

“ 手術中 ” が点灯する オペ室に繋がる…真っ直ぐな渡り廊下を足早に 進む。

こんな時に、ツワリの波が 私を襲う。

胸を押さえて 唾を飲み込み、歩幅が小さくなる私に
夏香さんは、身体を無理に起こそうとする。

救命士が止めるのも 聞かずに…何かを感づいた彼女は
身を乗り出す。

「 私の 命なんてっ!いらないっ!

お願いっ!! 紗奈ちゃん……Dーカクを守って。

DNAーカクテル なら……ashを越えられる。

きっと、日本中を感動させられる モンスターバンドになれる。

シンの……夢を 守って。 お願い。」

「 篠田さんっ、オペ室入りますよ。」

「 夏香さん…大丈夫。 大丈夫だから必ず約束する。

必ず……。

だから、今は自分の足の事だけ 考えて…安心して。」

私の足が渡り廊下の端で 止まる。

オペ室の扉が閉まるのを 確認すると、私は廊下の壁にズルズルとしゃがみ込んだ。

私の中の 小さな命に 気づいたのではないかと 思うくらい …夏香さんの表情が 複雑で ……



胸が……キモチ悪い……

少し……こうしていよう。


私は下腹を 守るように 両腕で 包み込む。


少し……こうしていたら……おさまる はず。



“ シンの為だったら 私の命なんて…… ”

いらない……



私は 夏香さんの愛情に やっぱり 後退りする。

とても 長い時間をかけて……果てしない愛情をかけて……やっと 育つ命。

それなのに………

消えるのは一瞬 なんだと……

失うのは一瞬でもあるということを、

よく 知っている。


誰かの為にある命なんてない。

けれど……

一つの命は 誰かの為に、必ずある。


夏香さんには……伝えなくちゃ…。

“ ありがとう…… ”

シンを 守ってくれて ありがとう……と。




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