No border ~雨も月も…君との距離も~
21章 愛という距離、自由という孤独
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私は 粉雪がいつしか…小雨に変わっていたことにも気づかず……。

金色の電飾が眩しすぎる、銀杏並木を 歩いていた。

葉はすでに 落ちて 裸の枝にのっかる金色の電球はまるで二度目の紅葉のように 美しい。

目の前には 東京駅の正面。


ずっと……気持ちは 変わらないと……。

ずっと……傍にいる。

不安になんかさせない。

シンのその言葉で、私はこの先も クリスマスイブを祝うことができるだろう。

このキラキラした季節を 嫌いになったりはしないだろう。

それなのに……

シンの声は 私を呼び止める。

幻聴……?

幻影が……目の前の銀杏並木に 浮かび上がる。

「 ……紗奈っ!! 」

黒く細いシルエットは、立ち方ひとつで彼だと分かる。

幻聴でも、幻影でもない。

シンの声が 私を掴む。

「 ……はぁ…はぁ…紗奈っ。 待って… 」

「 …………シン…… 」

私は 思わずマフラーで口元を押さえて 息を整える。

「 ねぇ……紗奈。……子供 できたって、鈴ちゃんから聞いたっ…… 」

シンは ひどく走ってきたせいか 途中…喉を詰まらせ、脇腹に手を当てて 息を飲み込んだ。

「 ………………。 」

声に……ならない。

私は、強く 首を左右に振る。

何か 言おうとするけれど……やっぱり声が 声にならない。

首を 縮める私に シンはそっと腕を伸ばすと、私にコートのフードを被せて ぎゅっと……抱きしめた。

私は シンの腕の中で うずくまる。

「 シン……………ごめん……私。」

「 紗奈………俺、紗奈と別れて、夢だけを追いかけるなんてできない。」



ねぇ…………シン。

今 思えば あなたと見たものは 全て儚くて……

儚いからこそ とても……とても、美しくて、

苦しいくらい 美しかった。


去年の クリスマスイブ、
シンの肩で 消える パウダースノー。

日の出前の、玄関先。
シンが 連れてきた 桜の花びら。

花火の色を 頬に映して……内緒で 重ねた唇。

雲に出入りする 気まぐれな満月と愛しい横顔。


あの日……小さな街で、小さな伝説になった あのバラード。

“ Pure white you ”

Pure。……それは、私じゃなくて あなただと思う。


そして……命。

私達は、同じ空の下、同じ空気を吸って…同じところで笑い合う。

かけがえのない命が そこにはあって、

儚くて……切なくて、愛おしかった。

「 紗奈。 結婚しよう……。 一緒に いよう。」





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