No border ~雨も月も…君との距離も~
シンは 私が思う以上に 冷静で、私が思う以上に大きくて……

彼なら、きっとこの胸で 私と赤ちゃんを守ってくれる……。

けれど……

私は、嘘をつく。


Dーカクのシンが……大好きだから、歌うシンが……大好きだから。

DNAーカクテルは、きっと…私の知らない世界を見れるバンドになる。

彼を縛りたくない。

彼を自由に……羽ばたかせたい。


だから、嘘をつくと決めた。

「 シン、赤ちゃんなんて いないよ。嘘…ついてた。
鈴ちゃん……本気にしちゃって……。」

「 …………えっ。」

「 だから………私のことは 心配しないで……っ!」

「 何、言ってんだよ。紗奈っ!!」

「 だからっ!嘘 だって…… 鈴ちゃんが… 」

「 嘘、つくなよっ。そんな嘘…必要ないじゃん。」

「 だからっ!! ……私……不安になりすぎて、つい……そんな嘘を…… 」

シンは……私が嘘をつけば つくほど 腕に力を入れる。

ぎゅっと……されると

こんなに……ぎゅっとされると、負けてしまうよ……。

「 シン……赤ちゃん、もういないの……。」

「 …………え……何?」

「 もう……いない。」

「 ……なんで…… 」

「もう……いないから、シンは、自由のままでいいんだよ。」

「 そんなこと……言うなよ。
何で……何でそんな 嘘をつくの……?」

「 堕ろした。 もう……堕ろしたから…… 」

しばらくの沈黙の後 シンは震えるように息を吸って、私の身体を 自分の胸から放した。

「 何で……そんな 勝手なことすんだよっ」

吐き捨てるように言葉を投げる シンの目には 涙が光っていた。

「 俺の子……じゃん。なんで……そんな勝手なことすんだよっ……。」


ごめん……。

ごめん、シン。

Dーカクを、今度こそ…守らなくちゃ。

私のせいで、壊すことは…できない。


「 一つの命が、どれだけ大切かって…俺たち、誰よりも知ってるはずじゃん。」

「知ってるからだよっ…。 一つの命が、どれだけの人に影響を与えるのか、悲しみも喜びも…人 一人って……半端ないから。
知ってるからだよ。」

「 そんなの……間違ってる…… 」

「 ………………。 」

今度こそ、シンは 私に謝ってくれない。

それほどの……嘘を 私はついてる。

「 俺が……男として まだまだなのは わかってる…。けれど……

けれど……子供が 可哀想だよ。

そんなの、ひどすぎる。」
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